タイミング法
最も妊娠しやすいのは「排卵日の前」
多くの方が「排卵日当日が一番妊娠しやすい」と考えがちですが、実は「排卵の2〜3日前から排卵日直前」にかけて最も妊娠率が高くなります。 その理由は、卵子と精子の「寿命の違い」にあります。
卵子の寿命:約12時間(排卵してから受精できる期間は非常に短いです)
精子の寿命:約72時間(約3日間)(女性の体内で数日間生き続けることができます)
卵子が排卵されてから精子が向かうのでは、卵子の短い寿命に間に合わない可能性があります。そのため、排卵が起こる前にタイミングをとり、寿命の長い精子が卵管の先で卵子を「待ち伏せ」している状態を作っておくことが、妊娠への最大の近道となります。
- 適応:卵管・精子に問題がなく自然妊娠が期待できるカップル(治療前に精液検査を推奨)
-
妊娠率:1周期あたり 約5%、6ヶ月で累積 約50%(4〜6周期で妊娠しない場合はステップアップを検討)
(※)日本産婦人科医会 診療指針参照
通院の流れ(1周期)
- 月経期:超音波で卵胞・内膜を確認
- 卵胞期:卵胞の大きさ・ホルモン値から排卵日を予測
- 排卵誘発:必要に応じて HCG 注射
- タイミング指導:排卵前に性交を推奨
その後
月経が来たら次周期の診察へ
月経が来ない場合は妊娠検査薬で確認
人工授精(AIH)
人工授精(AIH)は、排卵のタイミングに合わせて、洗浄・濃縮した精子を細いカテーテルで子宮内に届ける治療です。 採卵や受精操作は行わず、自然妊娠に近い流れで進む負担の少ない方法です。 (精子を子宮に直接届ける点がタイミング法との大きな違い)
◆ 適応となるケース
- タイミング法を複数周期行っても妊娠しない
- 軽度の精液所見異常(総運動精子数200万以上など)
- 性交が難しい状況(ED・性感染症・仕事の都合など)
◆ 向かないケース
- 卵管の通過障害がある
- 重度の乏精子症・精子無力症
- 抗精子抗体が高い → 体外受精・顕微授精を検討
◆ 妊娠率
1回あたり 約5〜10%。 累積妊娠率は3〜4周期で上昇し、5〜6周期で頭打ちに。 当院は多胎リスクを避けるため1回法を採用。
(※)日本産婦人科医会 統計データ参照
◆ 通院の流れ(1周期)
- 月経期:検査・排卵誘発剤の処方
- 卵胞期:卵胞・内膜チェック、日程決定
- 前日:hCG注射で排卵誘発
- 当日:採精 → 精子濃縮 → 子宮内に注入 (処置は痛みが少なく、当日も普段どおり過ごせます)
◆ 副作用・リスク
軽い出血、子宮内感染・腹膜炎(まれ)
◆ ステップアップの目安
4〜6回行っても妊娠に至らない場合は、体外受精・顕微授精を含め治療方針を再検討。
◆ 院長メッセージ(要約)
性交のタイミングを排卵日に合わせることが難しいのは自然なこと。 人工授精を活用することで、むしろ関係が良い方向に変わる方もいます。 保険適用で費用負担も軽くなり、選択しやすい治療になりました。
体外受精(IVF)
体外受精(IVF)は、採卵で取り出した卵子と精子を体外で受精させる治療です。
卵子と精子を同じ培養液に入れ、精子が自力で卵子に到達して受精する“自然に近い方法”で行われます。
顕微授精(ICSI)のように精子を直接注入する操作は行わず、よりシンプルな媒精方法です。
■ IVFが適応となるケース
- タイミング法・人工授精を複数回行っても妊娠しない
- 精子濃度や運動率が低く、人工授精では難しい
- 卵管の切除・閉塞などで自然受精ができない
- 抗精子抗体など免疫性不妊
- 年齢や基礎疾患から早期に高度治療が望ましい場合
■ 治療の流れ(概要)
- 月経1〜3日目:ホルモン検査・AMH・卵胞数を確認
- 月経3日目〜:排卵誘発を開始し、複数の卵子を育てる
- 月経8〜9日目:採血・超音波で卵胞の発育をチェック
- 採卵36時間前:排卵を促す薬剤を投与
- 採卵当日:卵子を回収し、精子と体外で受精させる
顕微授精(ICSI)
顕微授精(ICSI)は、顕微鏡下で選んだ精子を細いガラス針で卵子の中に直接注入する受精方法です。
体外受精(IVF)が精子の自力での受精に依存するのに対し、ICSIは受精を積極的にサポートする技術です。
日本では2019年に15万周期以上実施され、現在は体外受精全体の約6割を占める主要な治療法となっています。
■ 適応となるケース
以下のように、自然受精が難しい状況で選択されます。
- 体外受精で受精卵が得られない、または良好胚ができない
- 精子濃度が極端に低い/運動率が著しく低い
- 無精子症の手術で得た精子を使う場合
- 抗精子抗体が強く、精子が働きにくい場合
■ 顕微授精の流れ
- 採卵で卵子を取り出す
- 精液を採取し、運動性や形態を確認して精子を選ぶ
- 顕微鏡下で卵子にガラス針を刺し、精子を1つ注入
- 受精後は胚培養へ進む
■ 妊娠率
日本産科婦人科学会の報告では射出精子を用いた移植1回あたりの妊娠率は約19%、生産率は約13%とされています。
■ リスク・副作用
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS):卵巣刺激で卵胞が増えすぎると発症(5〜10%)
- 遺伝的リスク:精子形成に問題がある場合、染色体異常が子へ伝わる可能性が高いとされる
- 卵子への物理的ストレス:針を刺すことで卵子が変性することがある
■ 年齢制限(保険適用)
43歳未満であれば保険適用
・40歳未満:6回まで
・40〜43歳未満:3回まで
※年齢を超えても、自費での治療相談は可能。
胚移植
胚移植は体外受精や顕微授精で得られた受精卵を子宮内に戻す処置のことです。
胚移植には新鮮胚移植と凍結融解胚移植があり、当院ではOHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクを抑えるため、ほとんどの症例で凍結融解胚移植を行っています。
■胚移植の種類
- 新鮮胚移植:採卵した周期と同じ月経周期に胚移植を行う。
- 凍結融解胚移植:受精卵を3~5日培養した後に急速ガラス化法という方法で凍結保存し、別の周期に胚移植を行う方法。
■移植周期による違い
- 自然周期:自然な排卵後5日目頃に胚移植を行う方法。排卵日はコントロールできないため、移植不可能な日に当たった場合は移植がキャンセルになることがある。
- HRT(ホルモン補充)周期:ホルモン製剤を使用しながら子宮内膜を育てて移植を行う方法。ホルモン剤の費用はかかるが仕事等で通院の日が限られている方や、自然周期だと排卵まで時間がかかる方はスケジュールの調整がしやすい。
※どちらの場合も子宮内膜やホルモンの状態で胚移植がキャンセルになることがありますのでご了承ください。
■その他
- 新鮮胚移植の場合も凍結融解胚移植の場合も移植後に黄体ホルモンの内服や腟坐薬でホルモン補充が必要になります。
- 移植後約10日後に来院いただき採血をして妊娠しているか判定します。妊娠している場合には妊娠8週頃までホルモン補充を続けます。
